NewsLetter

人と社会とウィルスと--SteinbeckのIn Dubious Battle

熊本大学(非) 馬渡美幸

 John Steinbeckは、1933年に実際にカリフォルニア州で起こったストライキを取材し、1936年にIn Dubious Battleを完成させた。この作品を次の2つの視点――(1)Steinbeckの提唱する「ファランクス論」から見る作家の思想、そして現代社会とウイルスとの関連について、(2)作品中に多用される表現、"something religious"が持つ深遠な意味――から考察し次のような結論に至った。
 生物学的・生理学的視点から見ると、「個人とそれで構成される集団」と「細胞とそれで構成される人間」という対比が作品中に存在する。その中でDoc Burtonが「ウイルス」のような役割を持ってMacやJimたちの集団と関わっていく。細胞とウイルスの戦いの究極形は「共存」であるが、彼らはストライキに対して「共存」しながら戦うことはできなかったということである。
  また、宗教というものは、人間が常に死後の世界に恐怖を感じるからこそ存在するものなのだ、と考えると、SteinbeckがJimとDoc Burtonに何度も「宗教」という表現を使って対話をさせたのも、もちろん最後のJimの死の伏線となっていると同時に、宗教の普遍的要素――言葉でも宗派でも民族でもなく、個々の心の中にある感情こそが宗教の本質である、ということを表現したかったからである。