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熊本県立大学 徳永 紀美子
80年代アメリカ文学の特徴の一つに、リアリズムが再び注目されるようになったことが挙げられる。この時期に主要な作品を発表し始めたリアリズム系の作家たちは、New
Realismという範疇に入れられることが多い。彼らはリアリズムの伝統的手法に則っただけでなく、ことさら日常生活における細部描写に拘り、その背後では現実や主体と思っているものでさえも不確定な構築物であるという意識を多かれ少なかれ共有している。彼らの作品では、個人は、ポストモダン的状況の中でマスメディアや消費文化の影響を強く受けながら、個の内面や足元を見つめることから<自己>や<自分を取り巻く世界と自己との関係>を探求し始めている。
発表ではIn Country (Bobbie Ann Mason, 1985)とDinner at
the Homesick Restaurant (Anne Tyler, 1982) を取り上げ、New Realismの枠の中で捉えられる各々の特色を概観した。前者は、ロゴスが無効となった時、Samが女性という自らの身体にベトナム戦争を書き込むことで、歴史の再構築と読み直しを試みた作品として、また、後者は、試みては失敗を重ねる家族の食事を中心のモチーフとし、個と家族の関係を見つめた作品として取り上げた。構造/ポスト構造主義がもたらした主体概念の解体を経た後、そこからどのように進むかを80年代の作家が模索したのだとすれば、両テクストが持つ結末の日向性は、模索された複数の方向の一つだと言える。つまり、個という狭い範囲に限られているにせよ、周縁性が有する潜在的力は人間の主体性回復への道標となりうるということが、そこに示されているのではないだろうか。
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